「監査」は、個別指導の結果などによって、保険診療の内容または診療報酬の請求について、架空・付増請求等の不正や著しい不当が疑われる場合に実施されます。
そして、その目的は、保険診療機関の指定の取消など行政上の措置を前提に行われるものです。
保険医療機関の運営において、監査を受けるケースはなかなかありませんが、そのようなことにならないように常日頃から、不正のないように診療を行う必要があります。
監査対象となる保険医療機関の選定基準は?
監査が行われる前には、レセプトによる書面調査や患者等に対する実地調査(患者調査)が行われます。
そして、それらの調査に基づいて監査が実施されることになります。
監査の実施には選定基準があり、次のいずれかに該当する場合に実施されることになっています。
- 診療内容に不正または著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
- 診療報酬の請求に不正または著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
- 度重なる個別指導によっても診療内容または診療報酬の請求に改善が見られないとき
- 正当な理由がなく個別指導を拒否したとき
不正・著しい不当、指導の無視・拒否などは監査の対象になります。
厚生労働省が示す「不正請求」の分類
指導の無視や拒否が監査の対象になるのは当然として、不正や著しい不当についてはどの程度のものがそれにあたるのかは分かりづらいです。
その点については、厚生労働省が不正請求の分類はどのようなものかを示しています。
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 架空請求 | 診療報酬請求月に診療行為がないにもかかわらず請求を行うこと |
| 付増請求 | 診療行為の回数(日数)、数量、内容等を実際に行ったよりも多く請求すること |
| 振替請求 | 実際に行った診療内容を保険点数の高い他の診療内容に振り替えて請求すること |
| 二重請求 | 自費診療して患者から料金を受領し、保険でも請求すること |
| 重複請求 | 請求済みのものを、重複して請求すること |
| その他の請求 | ・病院で医師数、看護師数が基準を満たさないのに、入院基本料を減額しない、施設基準の届出を行う(標決) ・定数超過入院で入院基本料を減額しない ・施設基準の要件を満たさずに届出を行う ・無資格者に診療行為をさせて保険請求をする ・業務上の傷病についての保険請求をする |
架空請求
架空請求は、診療報酬請求月に診療行為がないにもかかわらず請求を行うことです。
- 患者が実際には通院していない日に、来院して治療や処置を行ったことにして診療報酬請求をする
- すでに死亡している、あるいは別の病院に入院・転院した元患者のデータを使い、自院で継続して診察や処方を行っているように見せかける
- 実際には1回も行っていない高額な血液検査や画像診断(CT・MRIなど)、リハビリなどを「実施した」として請求に上乗せする
付増請求(つけまし)
付増請求は、診療行為の回数(日数)、数量、内容等を実際に行ったよりも多く請求することです。
- 実際には3日分しか薬を処方していないのに、レセプト(診療報酬明細書)には5日分と記載して請求する
- 1回の通院で1種類の検査しか行っていないのに、行っていない別の検査や血液採取も行ったことにして上乗せする
振替請求
振替請求は、実際に行った診療内容を保険点数の高い他の診療内容に振り替えて請求することです。
主に医療費の口座振替(引き落とし)や、公費負担医療などで受給者証を使わずに支払った費用の給付金を指定口座に振り込んでもらう手続き(支給申請・口座振替依頼)を指します。
二重請求
二重請求は、自費診療して患者から料金を受領し、保険でも請求することです。
- 同一の病気や治療について、公的医療保険を使いながら、一部の費用を自由診療(全額自己負担)としても二重に受け取る行為
重複請求
重複請求は、請求済みのものを、重複して請求することです。
- 患者から全額「自費(10割負担)」で治療費をもらっているにもかかわらず、「保険を使って治療した」と嘘のレセプトを出して診療報酬を請求する
- 健康診断(自費や会社の補助など)のついでに、その場で病気の診察を行ったとして、健診代とは別に「再診料(病院の基本料金のようなもの)」を二重に上乗せして請求する
標欠(ひょうけつ):人員基準を満たしていない
標欠とは、医療法で定められた病院や診療所の最低限必要な人員配置基準(人員配置標準)を満たせていない状態のことを言います。
施設基準の届出を行う際には、施設基準に対して必要な人員基準を定められているため、その基準を満たしていないといけません。
仮に、医師数や看護師数が基準を満たせなくなった場合、原則として速やかに地方厚生局へ変更の届出を行い、翌月から低い点数への切り替えや減額(または算定見直し)を行う必要があります。
正当な理由や特例に該当しないにもかかわらず、基準を満たさない状態を隠して満たしているように装って届出を続け、高い入院基本料を算定し続けた場合、地方厚生局による適時調査等で「不正・不当請求」とみなされます。
この場合、過去に遡って診療報酬の返還(自主返還等)を求められるほか、悪質な場合は個別指導や監査に移行するリスクがあります。
定数超過入院で入院基本料を減額しない
定数超過入院を行った場合は、原則として入院基本料を減額しなければいけません。
減額を行わずに診療報酬を請求することは、医療法や診療報酬上のルールに違反する不適切な行為(過大請求)です。
感染症の流行(コロナ禍など)や緊急時のやむを得ない対応において、厚労省から特例的な事務連絡や容認措置が出された場合に限り、一定の要件下で減額なしの算定が認められるケースがあります。
施設基準の要件を満たさずに届出を行う
施設基準の要件を満たしていないにもかかわらず、満たしていると偽って届出を行う(嘘の報告をする)行為は、極めて悪質であり、重大な違法行為(犯罪)です。
届出時点では人員基準を満たしていても、その後、標欠によって人員不足になり、それを届出しないことも同様です。
無資格者に診療行為をさせて保険請求をする
医療資格を持たないスタッフに診察やレントゲン撮影などの医療行為をさせ、まるで医師がやったかのように嘘の書類を作ってお金を請求する行為は、極めて悪質で重大な犯罪です。
業務上の傷病についての保険請求をする
業務上のケガや病気に対する保険請求(労災保険)は、医療機関の種類や給付内容に合わせて所定の請求書を提出して行います。
業務災害では健康保険は使えません。
医療機関において、労災と知った上で医療保険で保険請求を行うことは「労災隠し」になります。
病院が関与して労災隠し(私傷病へのすり替えや健康保険の不正利用など)が行われた場合、病院側も医師法違反や詐欺罪などに問われる可能性があり、重大な違法行為となります。
